鹿児島大学水産学部航海情報研究グループ「海ごみ研究室」では,海洋ごみ削減のため,1997年より各種調査研究活動を行ってきました。特に薩摩半島西岸吹上浜中央部の鹿児島県日置市二潟海岸(図1)では,1998年8月の海洋ごみの大量漂着事件以降,毎月一回,指標漂着物の回収調査(定期定点モニタリング)を行っています。
「海ごみ研究室」では,2008年5月より,これまでの研究成果を一般の方々に還元する試みとして,このモニタリングで得られた情報の一部を「海洋ごみ大量漂流漂着警報」(対象海域:九州西岸,北岸,本州日本海沿岸およびそれら周辺海域)として提供することにしました。これは,これまでのモニタリングによる指標漂着物回収量をもとに基準値を設け,毎月の指標漂着物回収量がその基準値を超えた場合,警報・注意報を発令するというものです。
なお警報・注意報には,海外起因(特に中国・台湾)の越境ごみの大量漂流漂着についての「越境ごみ大量漂流漂着警報・注意報」,国内起源ごみの大量流出(漂流漂着)についての「国内起因ごみ流出漂着警報・注意報」および注射器,薬品瓶等の危険ごみの大量漂着についての「危険ごみ漂着警報・注意報」の3種類(表1)を設けることにしました。
左図(図1 モニタリング地点(オレンジピンの場所))
種類 | 意味 | 発生率 | 備考 |
警報 | 海洋ごみの大量漂着の発生が疑われる場合 | 1% | 100ケ月(約9年)に1回の確立で発生する大量漂着であり,報道機関が漂着状況をニュースで取り上げる。 |
警報(継続) | 前月の警報に引き続き,海洋ごみの大量漂着の発生が継続していると疑われる場合 | 5% | 大量漂着が継続するため,モニタリング地点以北の九州西岸,九州北岸および日本海沿岸でも今後大量の漂着が発生する可能性がある。 |
注意報 | 海洋ごみの漂着量の季節変化の中で特に多くなる場合 | 5% | 20ケ月(約2年)に1回の確立で発生する漂着。 |
本警報システムの狙いは,海洋ごみの大量漂着の発生について,その原因の早期究明や事前の回収処理対策,注意喚起等を講ずるための資料として,海岸利用者,海岸管理者(地方公共団体)および海岸環境保全団体等に,その発生の有無を一定の科学的根拠に基づいて迅速に提供することにあります。
警報には,大量漂着警報と漂着注意報の2種類があります。警報の意味は,100ケ月間(約9年間)に1度起きる規模の海洋ごみの大量漂流漂着の発生が疑われる場合,またはその継続が疑われる場合です。調査開始からの10年間の傾向を見てみると,海洋ごみの大量漂着は,徐々に増えるというよりは,突然発生し,約3ヶ月間ほど継続して収束していきます。海洋ごみの大量漂着には,その「発生」,「漂流」および「漂着」といったそれぞれ異なる条件がすべて揃う必要があり,その兆候を事前に捉えることは非常に困難です。これまでの海洋ごみの大量漂着の事例と警報の関係を表2に示します。鹿児島県薩摩半島西岸沖を漂流する海洋ごみは,対馬暖流に乗って北方に移動するため,大量漂着の被害も時間の経過とともに九州西岸,北岸および日本海沿岸地域へ拡大していきます。そこで,大陸からの漂流経路上にあり,かつできる限り発生源に近い場所(経路上の上流側)で定期的に調査するにより,その後の漂流経路上(経路上の下流側)での大量漂着を予測し,注意喚起を行おうと考えました。
警報発生月 | 大量漂着事例 |
1998年8月-10月 | 薩摩半島西岸から九州西岸に大量の中国台湾系ごみが漂着した。 |
2005年9月(2005.7-8注意報) | 8月以降,大量の中国系ごみが日本海沿岸に漂着した。 |
2006年7月-9月 | 7月以降,九州西岸,長崎県五島に大量の中国系ごみや大型流木が漂着した。 |
警報の基準値は,1%の確率で発生する漂着量(大量漂着)となるように統計的に定めたものです。注意報の基準値は,警報発生時を除いて5%の確率で発生する漂着量となるように定めたものです。なお前月に警報が発令されていた場合は,翌月の回収個数が発生確率5%となる基準値(警報の継続基準値)以上で警報を継続します。警報・注意報の基準値を表3に示します。
警報名 | 指標漂着物 | 警報 | 注意報 | |
開始基準値(個) | 継続基準値(個) | 基準値(個) | ||
越境ごみ大量漂流漂着警報・注意報 | 海外起因ディスポーザブルライター(中国・台湾で販売・配布・消費されたもの) | 58 | 27 | 27 |
漁業用プラスチックフロート(オレンジ色) | 344 | 136 | 136 | |
漁業用プラスチックフロート(青色) | 76 | 33 | 33 | |
※上記指標漂着物のうち、2つ以上回収量が警報・注意報基準値を超えた場合 | ||||
国内起因ごみ流出漂着警報・注意報 | 国内起因ディスポーザブルライター(日本国内で販売・配布・消費されたもの) | 89 | 49 | 49 |
危険ごみ漂着警報・注意報 | 注射器 | 5 | 4 | 4 |
備考:基準値の計算方法
警報・注意報の基準値は,1999年1月から2007年12月までの過去9年間(108ヶ月分)に定められた海岸区間(延長1.6km)から回収された指標漂着物の回収量(個数)を標本データとし,それらを自然対数に変換して得られた平均値,標準偏差を使って,ステューデントのt分布の片側5%,1%の発生率となる個数とした。
参考文献:「定期漂着物モニタリングによる海洋ごみ大量漂流漂着警報の試み」藤枝繁,漂着物学会誌,7,27-32,2009 (3.1MB)
Seafrogs/2010.8.20